罔殆庵

染井吉野ナンシーの官能世界

北京陳情村


『北京陳情村』読了。

著者は、とにかく北京の陳情村へほぼ二年通ったわけです。ただ、国際的に陳情村が話題になった時期をとうに過ぎ、著者も通うことの意義を見失いながらの訪問です。

著者は、新聞記者のように社会の暗部を鋭くえぐるわけでもなく、チャイナウォッチャーのようにその背景を分析して解決方法を提言するわけでもなく、はたまた何か解決のための行動を起こすわけでもありません。ただただ陳情村を訪れては彼らの話を聞くだけです。

そういう意味では、ルポルタージュ、ドキュメンタリーとしては物足りないですし、そもそもそういう範疇の本ではないのかもしれません。陳情者たちの話だけではなく、政府役人(中央・地方)、北京にふつうに暮らしている市民、研究者などに取材をして、さらに肉付けをすればよかったのかもしれません。

でも、たぶん著者は最初からそういう部分を放棄しているというか、現時点で自分にできることをよくわかっているのでしょう。とにかく彼らにできるだけ近づき、何もしてあげれらないのに話を聞き、そして何もしてあげれらないことに悩み、逡巡しています。その等身大の姿が本書の最大の魅力なのではないでしょうか?