罔殆庵

染井吉野ナンシーの官能世界

本を買う分水嶺

ちくま新書の『ヨーロッパ現代史』を読みました。

英仏独を中心に、ソ連(ロシア)とその他の地域を俯瞰しながら、戦後を十年ごとに区切って現代までを概観してる一冊です。若干、年代の記述がちぐはぐに感じられるところもありましたが、戦後のヨーロッパを一気につかめるという点では非常にわかりやすい本でした。

ところでちくま新書と言えば、少し前に『ヨーロッパ近代史』という一冊も刊行されていまして、もちろん、それも読みました。

こちらはタイトルどおり、ヨーロッパの近代を扱ったもので、扱っているのはルネサンスから第一次世界大戦までになります。

第一次大戦から第二次大戦までがすっぽりと抜け落ちていますが、ヨーロッパの近現代史をつかむには手頃な新書だと思います。だからこそ、ヨーロッパ史門外漢のあたしですら買って読んでみたわけですから。

ところで、ヨーロッパの近現代史を扱った通史としてはこんなものもあります。

力の追求(上) ヨーロッパ史1815-1914』『力の追求(下)ヨーロッパ史1815-1914』『地獄の淵から ヨーロッパ史1914-1949』の三冊で、これは《シリーズ近現代ヨーロッパ200年史》全4巻のうちの三冊になります。最終の第4巻は未完ですが、第二次世界大戦以後現代までを扱う予定です。

タイトルからおわかりのように、このシリーズは1815年以降から現代までとなり、ちくま新書の扱う時代とは微妙にずれています。しかし、最大の差はその価格ではないでしょうか?

  

ちくま新書は『現代史』が本体1100円、『近代史』が本体1000円であるのに対し、《ヨーロッパ200年史》の方は順に5600円、5800円、6200円(すべて本体価格)です。ちくま新書も新書としてはやや価格が高い方ですが、比べてしまうとやはり安いです。判型も新書判のちくま新書に対して、A5判と単行本としては大きなサイズですし、ページ数もかなりあります。

これだけの分量差があると、扱っている情報量には相当大きな差があるの当たり前で、それが価格にも反映されているわけです。そうなると、おのずから購買者も限られてきてしまいます。

ところで、あたしが中国思想や中国史を学生時代に学んでいたということは、このダイアリーを読んでくださっている方であればよくご存じかと思います。もし、これが中国史を扱ったものであれば、6000円前後する大著であったとしても、少し逡巡はしますが間違いなく購入すると思います。しかし、専門外のヨーロッパ史となると、ちょっと手が出ません。手頃な新書でお茶を濁してしまいます。

恐らく、多くの人にとっても同じようなことではないでしょうか? もし仮に《200年史》の方が2000円台だったとしたら、門外漢の人でも買ってくれるでしょうか? 安くても、やはりボリュームに尻込みしてしまうでしょうか?

一歩退いて考えれば、それぞれの本にそれぞれの読者がいるわけであり、ちゃんと棲み分けられていると考えることもありますが、やはり出版社としては本は売れてなんぼの世界です。売っても売っても赤字では困りますが、どの程度の価格であれば読者層が一気に広がるのか、非常に興味のあるところです。