罔殆庵

染井吉野ナンシーの官能世界

愛するってなんだろう?

Youtubeで「林奕含」を検索をするといくつもの動画がヒットします。以下に引用したのは、そのうちの一つです。

ごくごくフツーの若くてきれいな女性がインタビュアーの質問ににこやかに答えている動画にしか見えません。この時からそれほど時間をおかず彼女みずから命を絶ってしまうなんて、とても想像できません。しかし、それが事実です。

『房思琪の初恋の楽園』を読みましたが、苦しいです。そして男の身勝手さ、醜さが読んでいて吐き気が出そうになるほどです。そしてそんな男をも含んだ世間、社会の冷淡さ。そんな醜悪な世界の中で必死にもがき苦しみながら生きようとした主人公・房思琪(ファン・スーチー)の純粋さと解釈したら、恐らく作者に「あなたはこの小説を誤解している」と言われてしまうのでしょう。

「訳者あとがき」には

「誘惑された、あるいは強姦された女の子の物語」ではなく、「強姦犯を愛した女の子の物語」なのだと言いつつ「かすかな希望を感じられたら、それはあなたの読み違いだと思うので、もう一度読み返したほうがいいでしょう」と「かすかな希望」を否定する。彼女の思いも、愛する文学に救いを求めて客観的に描こうとする意識と、心の奥底に澱む絶望との間で、最後まで揺れ続けていたのではないだろうか。

とあります(267頁)。

本書をどう読むのが正解なのか、あたしにはわかりません。三人称で書かれた文体は、確かに房思琪を主人公としつつも、全体的な語り手は劉怡婷(リュウ・イーティン)でもありますし、その他にも複数の登場人物の心の声が折り重なってきます。誰の視点で読むかによっても異なる印象を与えるのではないでしょうか?

最初と最後は、豪華なマンションに暮らす住人たちの、ちょっとしたホームパーティーのシーンです。しかし、何の予備知識もなく描かれる最初の会食のシーンと、本書を読み通した後の会食のシーンがまるで異なる印象になるのは当たり前でしょう。そして最後の最後、マンションの前を通りがかった人のつぶやき、「申し分のないい人生」という言葉には皮肉が効きすぎているように感じられます。

ふだん、あまり人と本の感想を語り合いたいとは思わないのですが、本書だけは他の人がどう感じたか、どう受けとめたのか、聞いてみたいと思いました。読書会向けの本というには苦しすぎますが。