罔殆庵

染井吉野ナンシーの官能世界

Don't think, feel!

いま読んでいる『上海フリータクシー』の中にこんな文章があります。

歴史を消すことができるなんて、信じられない

著者の友人の一人で、上海の高校で教師をしている女性のセリフです。彼女は生徒たちに自分の頭で考えることを教えようとするのですが、年ごとに生徒たちは保守的になっていると感じます。そして

時が経つにつれ、一九八九年の出来事、中国の首都に戦車が進攻し、兵士たちが何百、おそらくは何千という市民を殺した出来事を生徒たちがほとんど知らずにいることに、彼女はまた衝撃を受けた

のです(同書110頁)。そして上に引いたセリフをつぶやくのです。日本に対し常日頃歴史を直視しろと主張する中国共産党が歴史を平気で塗り替えている現実。そこに気づいた一部の知識人は、いまの中国でどれくらい居心地の悪さを感じていることでしょう。

少し前に『習近平vs.中国人』を読んでいたのですが、そこでも中国共産党による締め付けとそれに対する中国人の諦めが描かれていました。

さて、このダイアリーのタイトルはブルース・リーの有名なセリフだということはご存じだと思います。「考えるな、感じろ」というわけですが、このセリフ、ブルース・リーがつぶやいてから数十年を経て、現在の中国に生きる知識人への教訓、警告のように聞こえます。

つまり、人権とか民主主義とかそんなことは考えない方がよい、そんなことを考えている暇があるなら、いま共産党が何を考えている、どうしようと思っているのかについて肌感覚で感じるようになれ、というわけです。たぶん、ブルース・リーの映画のセリフだと告げずに、現在の中国でこの言葉を知識人たちに伝えれば、そんな風な意味に取るのではないでしょうか?

なんとも皮肉なものではないですか? ブルース・リーが生きていたらどう思ったことでしょう?