罔殆庵

染井吉野ナンシーの官能世界

ノーベル賞とともに

今年もノーベル賞が発表されました。

あたしに限らず、出版界としては文学賞に注目が集まりがちですが、ここ数年は物理学賞や生理学賞など、理系分野で日本人の受賞が続き、世間的にはそちらが盛り上がっているように感じます。またそれに関連する書籍もあったりして、「ノーベル賞文学賞」的な印象が薄れた感があります。

そんな中、今年のノーベル賞ではその理系ジャンルでは日本人の受賞はならず、やや盛り上がりかけたまま推移して、平和賞はイランの人権活動家に贈られることが発表されました。これでは書店でフェア展開ができないと思っている業界人も多いかも知れませんが、イランの女性と言えば、この本を忘れるわけにはいきません、『テヘランでロリータを読む』です。

あたしの勤務先から刊行されていた単行本は現在品切れですが、河出文庫版が入手可能です。タイトルだけですと「なんのこっちゃ?」と思う方も多いと思いますが、抑圧されたイランで、西側の文化の象徴的な作品である『ロリータ』を読むことがどれほど危険な行為なのか、本書を読めばよくわかると思います。

単行本は品切れと書きましたが、同著者によるノンフィクション『語れなかった物語 ある家族のイラン現代史』はまだ在庫がありますので、是非『テヘロリ』と併読していただければ幸いです。

同じくイランに活きる家族の歴史を描いた作品に『スモモの木の啓示』があります。この作品は、イラン・イスラム革命に翻弄された家族の物語で、現在のイランに続く苦悩を少女の目線で描いた作品です。ただ、その少女の正体というのが初めの方で明かされますが、ちょっと衝撃的です。

本作を読むと、かつてはここまで抑圧的でなく、平和に暮らすことができたイランがあったのだなあということがわかります。だからこそ革命後のイランの体制がより過酷なのでしょう。この状況はいつまで続くのか。ウクライナにばかり世界の目が集まっていますが、イランも、あるいはミャンマーなど、もちろん中国や北朝鮮だって、国内で弾圧が行なわれている国は、むしろ最近増えているのではないかという気がします。