罔殆庵

染井吉野ナンシーの官能世界

『史記』の人間学

講談社現代新書の『『史記』の人間学』読了。


史記』の注釈書などの研究書は多いが、人間学に関するものは少ないという著者の考えによって執筆された一冊。『史記』の中から、皇帝・将軍など何人かを選び、その人物像に迫るというものです。ただ、既に中国史を専門にやっている私などにすれば、どの程度人物像に迫れているのか、今ひとつわかりませんが、『史記』を知らない人、読んだことがない人、あるいは中国古代史に詳しくない人には手頃な入門書です。


取り上げられているのは皇帝や将軍に偏らず、『史記』全体の割合に比較的忠実に選び出されていると思います。個人的には、『史記』の著者・司馬遷の筆が冴えるという面からは、第5章から第六章の部分をもう少し広げてもよかったのではと思います。また、ページ数の関係もあるのでしょうが、巻末に人名索引などがあれば、より有効だったと思います。


一か所、孔子を扱った部分で「喪家の狗」を「お弔いのあった家の犬」と解釈しているのは、とても気になりました。これが著者の解釈なのでしょうが、研究者の間では一般に「宿無し犬」と解釈されているところだと思います。


各人物を取り上げた後の司馬遷の思いを著者が推論するくだりでは、ややビジネス書的な臭いもしますが、そういう方は、ぜひ『史記』そのものを読んでもらいたいと思います。原文では難しくても、翻訳が何種類も出ています。