罔殆庵

染井吉野ナンシーの官能世界

結局どうすれば……

中公新書の新刊『移民の経済学 雇用、経済成長から治安まで、日本は変わるか』を読みました。移民は受け入れるべきか、受け入れるべきではないのか、様々な論点から解説してくれます。世界の研究動向を紹介した上で、日本の場合だとどうなるのか、経済学の専門家でなくともわかりやすく書かれていました。

しかし、データの取り扱い方によって移民のプラス面、マイナス面があり、ちょっとした変数によってまるで異なる結果が出てしまうようです。ですから、著者は移民賛成派、移民反対派それぞれが自分に都合のよいような結果を導き出せることを再三再四指摘して注意を促しています。

となると、門外漢で、「つまり、どうすればよいのかしら?」と思っているあたしのような人間からすれば「結論がないじゃ亡いか」と言いたくもなります。しかし通読した感じたのは、国はあくまでグランドデザインを描くにとどめ、細かなところは各地域の実情を踏まえて条例などを策定する方がよいのではないかと思いました。移民と言うとアジア、アフリカ、南米など発展途上国からやって来る得体の知れない人たち、というイメージが先行しがちですが、欧米から来る人だっていますし、来る人の教育レベルも千差万別ですから、そもそも移民という言葉で一括りにしてよいような問題ではありません。

そのことがわかっただけでも収穫かなと思います。ただ、グローバル化する社会ですから、異なる国の人が同じ場所に住むようになるのは世の趨勢だと思います。だったら反対するよりも共生するための方策を考える方が建設的かなと感じました。 なお、本書が巻末に挙げる参考文献はすべて欧文のものなのですが、一点だけ邦訳のあるものがあり、それがあたしの勤務先から出ている『移民の政治経済学』でした。是非とも併読していただきたいものです。