罔殆庵

染井吉野ナンシーの官能世界

知識人の困惑?

まもなく刊行予定の『上海フリータクシー』が抜群に面白いです。

いや、面白いという表現は正確ではないかも知れません。

本書は、帯などを読んでいただければわかっていただけると思いますが、西側のジャーナリストが中国に赴任し、そこで庶民の中に分け入ってさまざまな話を聞く、そんなレポートです。似たような本は本書以外にもそれこそごまんとあります。日本人ものも、欧米人のもの、たくさん出ています。

それぞれの筆者が体験する中国の現実、話を聞かせてくれる中国の人々は十人十色で、興味深いものやちょっと突っ込みが足りないなあと感じるもの、それなりにあります。本書は上海に出稼ぎに来ている人、かなり底辺で呻吟している庶民も登場しますが、比較的恵まれた地位にいる人、中国の現状に疑問を感じている知識人が比較的多く登場する印象があります。

そして、彼ら知識人の意識の変化が垣間見える最後の三章が白眉と言えます。知識の何人かは中国に見切りをつけ欧米に脱出するのですがタイミングが悪かったとしか言いようがありません。アメリカではトランプ大統領の登場、ヨーロッパはイギリスのEI離脱や右翼政党の伸長など、知識人たちが信じてきた民主主義、自由主義が危機にさらされている時代でした。自分たちが憧れ理想と思っていた欧米のこのザマは何だ、これならむしろ中国の方がよいのでは、という懐疑。

それぞれの思いに、それなりに結論を出した人、まだまだ思案のただ中の人、著者はそれぞれのいまを描いています。彼らの苦悩、困惑はまだまだこれからも続くのでしょうが、中国を離れてしまった著者の筆はここで終わっています。さらに続きが読みたい、と思ったのはあたしだけではないと思います。