罔殆庵

染井吉野ナンシーの官能世界

ポンペオ長官はこの本を読んでいたのでしょうか?

アメリカのポンペオ国務長官が、中国に対して「習主席は全体主義思想の信奉者だ」と発言したというニュースが報じられています。この時代に「全体主義」などという言葉、単語を耳にするとはちょっと驚きですが、現代の中国に関して言えば、決して驚きでも何でもないのかも知れません。

というのも、少し前にあたしの勤務先から『新全体主義の思想史 コロンビア大学現代中国講義』という書籍が刊行されているからです。本書は翻訳書ですから、原書をポンペオ長官が目にしている、あるいは読んでいるのかも知れません。そうでなければ唐突に「全体主義」なんて言葉が出てくるとは思えないのですが……

もちろん本書で主張しているのは「全体主義」ではなく「新全体主義」であり、そこには違いもあるわけですが、政治家の発言ですから細かいことには頓着せず、キャッチーな言葉として使った可能性もあります。

ちなみに本書は、ウェブサイトの内容紹介では次のようにあります。

自由に発言することを望んで、中国社会科学院哲学研究所を解雇された著者は現在、米コロンビア大学で教鞭を執りながら、祖国を見詰める。本書はそのコロンビア大学で開講されている「現代中国の九大思潮」がもとになっている。その最大の特長は、現代中国を従来のように権威主義体制として理解せず、「新全体主義」と捉えていることである。ただ、この強権体制を見る視点は独裁一色というような単純なものではない。ポスト「六四」天安門の思想状況は、高度経済成長とともに、党=国家体制へと回収されていく強力なナショナリズムが醸成されたのは確かに事実である。だが、その過程は、グローバル化や通信技術の革新の下で展開しており、一党独裁を支える政治・社会思想はかつてのように一枚岩ではない。こうした新たな眼鏡を持つことが、一党独裁を掘り崩していく知的な土台になる。本書が「新全体主義知識社会学」と自ら規定しているのは、この意味においてである。世界的に注目される自由の闘士による中国批判理論構築の試み。

現在の中国を全体主義と捉える着眼点、かつての全体主義とどこが同じで、どこが異なるのか、本書を読めばよくわかることでしょう。ちなみに、アメリカにおける現代中国研究の成果としては『六四と一九八九 習近平帝国とどう向き合うのか』といったものもありますので、併せて手に取っていただければ幸いです。