罔殆庵

染井吉野ナンシーの官能世界

古代中国の文明観


古代中国の文明観』読了。


<文明観>とは言うものの、初めのうちは「自然認識(=自然をどう見るか)」といった印象でした。古代中国の主要な思想学派−儒墨道−の自然観・文明観を考察するという、中国哲学モノには珍しい視点が新鮮でした。


中国古代の春秋戦国時代大自然をかなり破壊していたのか、思想家たちの自然観にも現代にも通じる主張が見られます。否、現代を予知していたのではないかと思われるほど、冷徹な視線を感じます。


本書半ばからは、儒墨道それぞれの学派の文明観を語る章になるわけですが、この手の新書の宿命として、まずは儒墨道各学派の概説めいた部分が出てきます。これがやや冗長な印象を受け、肝心の文明観・自然観がつかみにくい嫌いがあるのは残念です。時を現在に置き換えても通用する言説が多いだけに、思いっきりその方面に絞って記述した方が却ってよかったのではないかと思います。


これは、中国思想を専門に学んできた私だからの感想で、一般の方には各思想学派の概説がないと、逆についていけないのかもしれないですね。ただ、そうなると、かなり多めの原文の引用(読み下し)が、直後に現代語訳があるとはいえ、少々うるさく感じるのではないでしょうか。


また、文明観という視点は面白いのですが、結局古代中国の思想家たちが、このような明確な意識を持っていたわけではないので、自然に対する主要三学派の主張が噛み合っているわけでもなく、また著者自らも書いているように、どの学派も一長一短でどれがよいと決めることはできないように、それが本書の結論を曖昧模糊としたモノにしてしまっているような印象を受けました。


個人的には、学派の主張だけではなく、具体的な当時の自然破壊(例えば大土木事業など)を紹介し、それが国家財政や人々の社会生活などにどの程度影響を及ぼしていたのか(なかなか具体的に描き出すのは困難でしょうが)といった部分を書いてもらえると、中国思想が専門でない人にも、より親近感を持たれたのではないかと思います。