罔殆庵

染井吉野ナンシーの官能世界

漢語からみえる世界と世間

中川正之『漢語からみえる世界と世間』読了。


著者・中川先生は、あたしが担当した『白水社中国語辞典』でたいへんお世話になった方なので、こういった読書感想は書きにくいのですが……。


全般的に言って、言語学に興味のある方には十分面白く、肩肘張らずに読める本です。並製という造りからもわかるように、決して専門家向けではなく、一般の<コトバ>マニアにも十分楽しめるものと言えます。


ただ、やはり一般の方の場合、中国語を知ってないとついて行きにくい部分もあります。説明しなければいけない部分をかなり省略したのではないかと思われますので、「なんで、そうなるの?」といった疑問が中国語不安内の人にはわき起こるかもしれません。よく言われるように言葉は生き物なので、また中川先生自身が本書中で書かれているように、もっと実例を採取したり、検証したりしないといけない部分も多々あるでしょうが、そういう部分を抜きにして、日本語ってこんなに中国語の影響を受けたのに、こんなに違うんだ、と素直に感じられればよいのかもしれません。


また「世界と世間」というタイトルで、これが「新書」であれば、それこそ誰が読んでも面白おかしいエッセイになるのでしょうが、そこは岩波書店、読者ターゲットはもう少し上級をねらっているという感じがします。


刊行前に、中川先生とお話しした時に、ちょうど反日デモなども起こっていた時期でしたので、言葉を通じてどのように世界・世間をとらえているかという日中比較の視点から、現在の状況に触れるのも面白いかもしれないが、状況があまりにも過激に動いているのでそこまで踏み込まなかったというような話を伺いましたが、本書を読んで現在の日中問題を考えるのは、偉そうな言い方かもしれませんが、読者の仕事ではないかと思いました。