罔殆庵

染井吉野ナンシーの官能世界

ただの西部劇ではない?

《エクス・リブリス》の『終わりのない日々』読了。カバー写真どおり、アメリカの西部を舞台にした作品でした。もちろん時代も南北戦争のころで、現代の物語ではありません。

語り手の主人公は、アイルランドからアメリカ大陸に渡ってきた少年で、炭鉱街の酒場で女装して踊るアルバイトをした後、インディアン討伐の軍隊に入り、更には南北戦争にも従軍するという人生を送ります。主人公の語りで進むからなのか、非常にテンポよく、また闘いのシーンも多いのですが、それほど陰惨な印象は受けず、西部の荒野のようにカラッとした印象で物語は進んで行きます。

ところが、後半、インディアンの娘、ウィノナを迎えてから家族の情愛が生まれたからなのか、物語にもウェットな感じを帯びてきます。そして主人公を待ち受ける、どうしようもなく過酷な運命。

と、ここまで書いて、実はこの作品を彩る大辞な設定について触れていないことを思い出しました。乞食同線の少年だった主人公が出会うのが美少年のジョン・コールです。二人は同性愛の関係になるのですが、そこが強く描かれるわけではありません。むしろ同性愛と言うよりも、主人公の心が女性、つまり今で言うところの性同一性障害なのかな、と思いました。そうなると同性愛ではなく主人公からすれば異性愛になるのだと思います。

そして、この作品を読み終わってあたしが一番強く思ったのは、そして「訳者あとがき」にもうれしい情報が書かれていましたが、主人公二人に愛情を注がれて育つウィノナから見た世界を描いたスピンオフ作品が読みたいということです。なんとウィノナを主人公にした物語『A Thousand Moons』は既にアメリカで刊行されているとのこと。早く邦訳が読みたいものです。