罔殆庵

染井吉野ナンシーの官能世界

棚作りという概念が崩壊する?

業界では少し前から話題になっていましたが、ようやく開店ということでニュースなどでも大きく取り上げられていた無人書店。東京メトロ溜池山王駅の構内にオープンするそうです。

この業界に詳しくない人には「何のこと?」という話になりますが、この書店は大手取次の日販が始めたもので、もう一つの大手取次・トーハンが始めた無人書店は、夜間だけ無人になるということで、少し前に世田谷にオープンしています。二大取次が揃って無人書店をスタートさせたわけです。

世田谷の方は、昼間は書店員のいる山下書店ですから、それなりに本を選びもすれば、並べ方、読者の好みを考えて仕入もしていることでしょう。夜間の時間帯になって売れる本の傾向がどう変わるのか、いろいろ実験的なところもあるかと思います。

それに対して今回の溜池山王の書店は最初から最後まで書店員レスですので、どういう品揃えになったのでしょう。まずは日販のデータで売れ筋上位銘柄を並べているのでしょうね。売れた本のデータは取れるでしょうけど、どんな本を手に取っていたか、書店員に聞けないからデータを取りようもありませんが、どんな本を探しに来たのか、そういったデータを集めるのは至難でしょう。

そうなると無個性な書店にしかならないのではないか、そんな気もします。書店の醍醐味と言えば棚作りだと思います。書店員の拘りもあれば、お客さんからの声も反映されるでしょうし、われわれ出版社の営業との話の中から生まれるものもあるでしょう。無人書店ではそういうものが一切捨象されてしまうわけですよね。半年や一年経ったころ、唐書の棚とどれくらい変わっているのか、そしてそれがどのくらい利用者の支持を得ているのか、興味深いところです。

リアル書店であればお客さんのことを「読者」と呼んでもおかしくないですが、こういう無人書店だと「利用者」としか呼べない気がします。