罔殆庵

染井吉野ナンシーの官能世界

上海狂想曲

上海狂想曲読了。


戦前の日本人作家や新聞記者の上海体験を通して、当時の日本人にとっての上海を描いた作品。


本文中で「最も近い外国の都市」というフレーズで上海が紹介されているのですが、戦時中ということもあるのでしょうが、ほとんど外国としての一面が出てこない気がします。


もちろん、日本と中国が交戦中で、その緊張感とか悲惨さなどは感じられますが、いわゆる「魔都」上海というイメージがからはほど遠い感じです。あまりにも日本人の書いたものに依拠しすぎたからではないでしょうか?


当時の日本人にとって上海とは何か、どういうところか、何故引きつけられたのか、今ひとつ伝わりづらかったです。


あえて、日本から訪れた短期滞在者の書いたものを資料として使ったところがミソなんでしょうけど、当時上海に住んでいた多くの日本人の肉声が伝わってきませんし、もちろん中国人や租界のフランス人、イギリス人などの様子、息づかいも伝わってきません。それが、今ひとつ深みの欠けるものになってしまった原因なのではないでしょうか?(著者は、中国語を解するのか、ちょっと疑問に感じたところもありましたので……)


といった感じで、あたしはもっと現地の人の声が聴きたかったのですが、逆に考えると、実は当時住んでいた人の書いたものってのは意外とあるのかもしれません。むしろ、こういう作家や記者などの記録を手軽にまとめた本の方がなかったかもしれません。そういう意味では貴重な一緒です。ただ、やはり当時の上海の地図は入れて欲しかったです。目次のところに当時の俯瞰図のような上海−南京周辺図が載っていますが、それでは本書に出てくる地名などの位置関係がほとんど掴めません。それが残念な点です。