罔殆庵

染井吉野ナンシーの官能世界

謝々!チャイニーズ


『謝々!チャイニーズ』読了。

かつて単行本で出ていた時にはノーチェック、気づきもしませんでした。さて内容はカメラマンでもあり、フリーのライターでもある著者が、まるっきり一人で中国最南端、ベトナムとの国境に近い小さな村(町?)から沿海部を北上し、訪れた村や町、あるいはその道中で出逢った人々との交流を描いたものです。

交流と書きましたが、かなりディープです。著者もところどころ中国人を嫌いになりかけるくらいディープです。それが中国人の「朋友」なんですね。そして著者は中国を見つつも、そこにしっかりと中国人を見ています。

著者の旅した時から既に一時代が流れ、著者が見聞した中国社会の矛盾は更に深まり、のっぴきならない社会の不安定さは深刻さを増しているようです。著者には特別、社会学や経済学といった学問知識があるわけではありませんが、持って生まれたその嗅覚で、そういう社会の暗部を見通しています。

著者は自分があまりにも貧しそうに見えたから中国の人がやたらと声をかけてくれたと書いていますが、著者自身の中国人に対する限りない愛着、偏見や曇りのない目や人柄、そしてある程度の中国語力があればこその、この大旅行だったと思います。有名人が書いたものですと、得てして一人旅風に書かれていても現地コーディネーターや出版社側が用意した段取りなどがあって、実は表層だけをなぞったものが多いのですが、本書に関しては全くの飛び込み、アポなし、ド素人の貧乏一人旅という感じがとても好感が持てます。

ただ、この手の著作でよく感じるのですが、こういう本を書く著者がよく書いている「自由」だとか「日本の息苦しさ」ってものがよくわかりません。定職に就いていない人がしばしば使う言葉に「縛られたくない」というのがありますが、それがあたしにはよくわかりません。

もはや「縛られている」と感じなくなるくらい馴らされているのでしょうか? 時々「自分こそ自由に生きている」という感じが鼻につくのですが、本書では、本文では感じられなかった「著者らしくない」部分を「あとがき」で多少感じました。