罔殆庵

染井吉野ナンシーの官能世界

二月の花


『二月の花』読了。

以前に読んだ『雲上的少女』が高校生の青春を描いたのなら、この作品は大学生の生活を綴ったものです。ただ、『雲上的少女』が北京を舞台にした、まさに「イマドキ」の高校生の物語、極論すれば舞台を東京だと言っても通じるような物語だったのに対し、本書は広州が舞台で、飛び級で入学した「おくて」の大学生の話です。

『雲上的少女』の主人公は大人から見ればいわゆる不良と呼べるような少女でで、ケータイ片手に放課後は友達と遊び回り、それなりにお金も持っています。一方『二月の花』の主人公は広州へ出てきた地方育ちのピュアな少女、家庭環境も厳格な教育者の両親で、趣味は読書名優等生、それこそ真面目を絵に描いたような生徒です。もちろん、男女交際などもってのほか、という対照を見せています。

この手のおくての真面目ちゃんが主人公の小説ですから、ある意味、もう一人の主役はその主人公に影響を与える不良の生徒で、世間知らずな主人公は知らないうちにどんどんその不良に惹かれていって、ゆっくりと大人への階段を上っていくという寸法です。

ただ、この小説の場合、ではその主人公は不良の友達とのつきあいを通じて大人になれたのだろうか、その不良の呪縛から解き放たれて本当の大人の女性になったのだろうかというと、結局なりきれていないような漢字で作品は終わっています。10年経ってもいまだにその友人の影響下にいる主人公の回想が、この小説の枠組みとなっていますが、一昔前なら、日本にもこういう女の子って大学でもかなり多かったんではないかと思います。(今も少数とはいえいるのでしょうけど…)

日本の作家なら、たぶん、この不良の友人やその男友達、主人公のルームメイトを主人公にして、別な角度からの物語を作って、オムニバス的な作品に仕立て上げるところではないでしょうか? それはそれで面白いと思いますね。

残念なのは、大学生のことを描いていながら、実際の主人公の大学生活、学生らしい部分の描写が少ないところです。ただ、それでも地方から都会へ出てきている中国の若者の漠然とした不安や焦りは痛いほど伝わってきます。