罔殆庵

染井吉野ナンシーの官能世界

令和の世に路地裏なんて

路地裏の子供たち』読了。

ダイベックの最初の短篇集と言うだけあって、原書が刊行されたのはかなり以前の1980年になります。時代は昭和ですね。

日本の年号による時代区分をアメリカ作家の作品に持ち込むのはどうかと思いますが、とはいえ、この作品にはどことなく懐かしい、昭和を彷彿とさせる世界が描かれています。

確かに、描かれている街の様子はアメリカです。シカゴには行ったことがありませんが(と言う前に、アメリカに行ったことがありません!)、シカゴを知っている人であれば、作品に描かれている街の様子を思い浮かべながら読むことができるのでしょう。そういう意味では、あたしにはイメージできないところは確かに存在します。

しかし、何と言うのでしょう、作品世界から漂ってくる空気というのでしょうか、そういったものには昭和の風景に通じるものが感じられるのです。下町であったり、町外れであったり、新興住宅街であったり、場所はいろいろイメージできますが、とにかく昭和を感じられる作品です。決して平成や、ましてや令和などではありえない、そんな空気が漂っています。

文体も、これだけで判断できるものではありませんが、最近の作家の文体とはリムと言いますか、言い回しと言いますか、なんかちょっと異なります。翻訳を読んでいるだけでそんな判断を下してよいものかとも思いますが、やはり最近の作品を読んでいるときとはちょっと異なる読書の時間を味わいました。

令和の初日に、昭和の香りのする作品を読み終わるなんて、なんとも不思議なものです。それに路地裏って、今の若い人はどんな情景をイメージするのでしょうか?