罔殆庵

染井吉野ナンシーの官能世界

西太后

『西太后―大清帝国最後の光芒』読了。


清末の女傑・西太后の評伝でありながら、その時代が現在の中国の出発点になっているという視点で書かれた「清末史概説」でもある書です。新書という形態から、なぜ現在の中国の元になっているのかという点では、証明が言葉足らずな面もありますが、「うんうん、確かにその通り」とうなずけるところが非常に多かったです。


女傑、権力の亡者、冷酷な悪人、といった従来の西太后の一般的なイメージ(あたしは、あまりそういったイメージを持っていなかったのですが…)をかなり一変させてくれるのではないでしょうか。西太后は良くも悪くも「女」であったという指摘は、呂后則天武后と比較した時によりはっきりしますが、個人的にはこのような非政治的な存在を政治の中心に据えようとする中国政治世界の特質を今一歩掘り下げてもらいたかったとも思います。本書には、清末の諸点が現在の中国の出発点であるという指摘が随所に見られますが、紙幅の都合上なのでしょう、上述のように更にもっと突っ込んで現在との類似点・相違点を吟味・検討して欲しかったと思います。(それは各自が考えることもかもしれませんが。)


現在の中国の歴史学のあり方(しばしば歴史事実を無視した極端な反日な態度を表わしますが…)を、ところどころ辛辣に指摘していますが、そんなところだけが昨今の嫌中派・反中派の論客たちに利用されないことを願います。