罔殆庵

染井吉野ナンシーの官能世界

中国人、会って話せばただの人

中国人、会って話せばただの人―近くて遠い隣人との対話』読了。


著者の田島氏が本文中でも述べているように、中国の「いま」を伝えるレポートとも言えるし、肩の凝らない旅行エッセイとも言えます。


中国について学者らしく分析的に欠いている部分と、田島氏の珍道中や中国人とのふれあいを楽しく欠いている部分もあり、それがごちゃ混ぜに並べられています。


でも、決して錯綜していて読みにくいという印象は受けません。中国モノを読んだことがない人には違和感を感じさせるかもしれませんが、たぶん、それも稀だと思います。あえて言うなら、この手の中国モノっていうのは、しばしば東京よりも近代化が進んでいるかのような上海など沿海地区を舞台にしたモノが多いですが、そういう日本人にも比較的馴染みの場所があまり出てこないので、そういう取っつきにくさがあるかもしれません。


さて、本書で田島氏が述べていますが、文書からは中国へ対する暖かな目線というのが随所に感じられます。ある国なり地域なりを研究する場合、この視線というのは大事だと思います。昨今は、ともすれば敵対的に見る風潮がありますが、国や地域を研究しようという場合、特殊な人を除いてはその国や人々ともっとふれあいたい分かり合いたいと思うものだと思います。その前提になるのは、出来る限りその人たちの立場に立って考えることだと思いますので、あたしも忘れないようにしなければと改めて思った次第です。


本書が評論でもなければエッセイでもないような体裁を取っているのは、ある意味正解だと思います。評論にしてしまうと、原因、結論、分析といった体裁にならざるを得ませんが、中国は国土も広ければ住む人も多く、いろいろな面で差が大きな国です。なので、中国の原状や将来に対し、確信を持ってモノが言える人ってのはほとんどいないと思います。もし言っていたら、それは嘘、デタラメだと思います。ですから、本書のように、そういうスタイルをあえて避け、その時その時思ったこと感じたことを書くスタイルがベストではないにしてもベターなのだろうと思いました。