罔殆庵

染井吉野ナンシーの官能世界

人民に奉仕する

人民に奉仕する』読了。


現在の改革開放路線を取る前の中国の、とある軍隊での話です。この本のオビなどを読めばだいたいわかってしまうので書いてしまいますが、あらすじは上司の家の(事実上)雑用係として配属された農民上がりの兵士が、その上司が北京へ行って留守の間に夫人と不倫の関係になってしまうというストーリーです。


ただ、そういう関係になってしまうまでの主人公の心の動きが描ききれていませんし、誘ってくる夫人の心理描写もさっぱりです。(上司とは年が離れていて、この上司が既に男性機能を喪失しているため、欲求不満であったということが、後になって明かされますが……)


それに、性愛描写も淡々としていて、過激な描写にあふれている日本人には、「この程度で発禁?」という気がしてしまいます。


そして終末。結局この関係は、夫人の妊娠と軍の解散によって終わりを告げることになるのですが、主人公が休暇という名目で自宅へ戻ってから虚脱状態になってしまっているところの描写も、なんか中途半端。


あまりにも休暇が長すぎると周囲の人に言われ(それと様子がおかしいから)、軍に戻ってみると軍の解散という急転回になっており、主人公は夫人の口利きによって既に軍を離れても暮らしていけるよう段取りされていたというあんばいです。


二人の別れのシーンも、名残を惜しんでもったいつけているようでありながら、描写が甘い感じがします。十数年たち、主人公が夫人を訪ねていき、逢わずに守衛に言づてだけして立ち去り、その数日後夫人も家を出たまま行方不明になってしまうという結末です。これは暗に二人で駆け落ちでもしたかのような余韻を残していますが、それはよいとして妻を寝取られた上司、また主人公の奥さんなどがちょこっとは登場しているのですが、全くきちんと描かれていない、極論すれば、ほとんど二人芝居のような作品です。