罔殆庵

染井吉野ナンシーの官能世界

訓読みのはなし

『訓読みのはなし』読了。


訓読みという独特の日本文化を、朝鮮やベトナムなど他の漢字文化圏の状況と比較しながら解説しています。内容は比較的多岐にわたっていますが、それぞれが小気味よいテンポで記述されているので、物足りなさや雑ぱくさを感じることはないと思います。

ただ、訓読みをあまりにも褒めすぎ、持ち上げすぎな感はありますね。

中国ニセモノ観光案内


『中国ニセモノ観光案内』読了。

この手の本は結構たくさん出ています。それにこの夏は北京五輪ですから、いろいろ各種メディアでは中国モノが増えている感があります。でも、書籍の分野では出ている割にそれほど売れていない気もしますが……

さて、本書は中国暮らしも長い著者による、中国の「トンでも」なモノを紹介した一書です。最初にも書いたように類書はたくさんあるので、聞いたような話も多く載っています。

しかし、どうして中国の人はこういうモノを作ってしまうのか、その点についてはもう少し掘り下げて欲しいなあ、と思います。中国に長年暮らした著者ならば、表面的に中国の瑕疵をあげつらって楽しむ大多数の読者の目を覚まさせるような著書を期待します。

日中「アジア・トップ」への条件


『日中「アジア・トップ」への条件』読了。

朝日新聞に連載していた著者のエッセイを、緩くテーマを設定して、それに合わせて編集したものです。中国のこの十数年の変化はとても激しいので、ものによってはちょっぴり古びた感はありますが、日本も中国もどちらをもこよなく愛する著者だからこそ言える、日中両国への苦言は、ライトな反中派にはスカッと心地よいのではないかと思います。

恐らく、著者が日常的に接する中国人は現在の中国が抱える問題、学ぶべき日本のよいところをきちんと理解している人がほとんどではないかと思います。しかし、それを大っぴらに口にできない日中間のわだかまり。それを埋めるには、地道な交流しかないのかと改めて思います。

不平等国家中国

『不平等国家中国』読了。

著者は数年来、中国の学者と共同で何回もアンケート調査を実施しており、その結果を踏まえた中国社会の考察です。大学教授や古典学者、あるいは特派員などの生活経験に根ざした中国モノにもそれなりの大白さはありますが、こういったアンケートという手法をベースにした中国モノは、新書ではあまりないので新鮮です。

アンケートや社会学的調査を専門にしているからなのか、著者は結論を語るのにかなり慎重で、そういう意味ではもどかしくもあり、歯がゆくもあります。中国でこの手のアンケートを実施する難しさがあるので仕方のない面はありますが、上述の体験記とはかなり異なるアンケートの分析結果には思わず目からウロコです。

著者が最後に語る「過去に進化する社会主義」という定義は、なかなか言い得て妙です。

愛国経済

『愛国経済』読了。

著者は以前から朝日新聞で中国からの記事があるとしばしば目にしていた名前の方です。比較的男性が多いと感じていた中国特派員の中で女性だったので、女性の視点ならではのルポなどを興味深く読んでいましたが、本書そういった意味では男っぽい硬派な内容になってます。

特派員によるこの手の本は単行本から文庫・新書までいくつもあり、動きの激しい中国、広い国土と多すぎる人口を抱えた中国ですから、そういった本も十人十色、人によって切り口によってそれぞれ特長のあるものになっています。

ただ、個人的には、やや親中だとかやや嫌中だとかという多少の違いはあるものの、どの本も似たような感じがするな、という印象を持っていました。

冷たく言ってしまえば本書もそうです。でもなんて言うのでしょう、女性ならではの思い切りの良さというのでしょうか、スパッと切ってみせる部分もあって、とても面白く読めました。特に最終章が一番読んでいて興味深かったですね。

中国の五大小説(上)

『中国の五大小説(上)』読了。

上巻では『三国志』『西遊記』を扱っています。ところどころ中国長編小説ならではの特長などを紹介したりしていますが、そういう細かなことにはこだわらず、あらすじで読む中国五大小説、といったノリで読み進めればよいのではないでしょうか?

改めて思ったのは、正史の『三国志』では文官の記述が充実していて武将たちはそれほど紙幅を割かれていないのに、『演義』では全くその逆の扱いになっているというところ。ほほお、そうでしたか、という思いです。

また『西遊記』だけは物語の地理的範囲が他の四つに比べて桁外れに広いんだということを改めて自覚させられましたが、それにしても中国からインドまで、当時(玄奘の生きた唐代か、物語の成立した宋明の頃か?)の地理的知識がそれほど浅かったとは思えませんが、道中まともな人間の国はなかったのでしょうか? そんなことを思いました。

新華僑老華僑―変容する日本の中国人社会


『新華僑老華僑』読了。

二人の著者の共著で、完全に分担執筆です。前半の長崎、神戸、横浜という日本の三大中華街のルポは、そこに住む華僑たちの声と合わせ、三都市の個性がわかり興味深かったです。三つとも行ったことがあり、どこもそれぞれ個性がありますが、いわゆる観光地・中華街という視点で見ると長崎が一番小さくこぢんまりとしていて、横浜が一番大きく賑やかです。

でも、実際に住んでいる人の感じからすると、長崎はほどよく日本人となじんでいて、横浜が一番日本人とは疎遠であるということがわかりました。それぞれの都市の役所の対応にもそんなところが表われているみたいです。

後半の華僑の歴史では、当然のことながら、昨今の留学生の増加や彼らの日本人化(帰化)という現実も踏まえ、華僑と一括りにできないことはわかっていましたが、そのあたりのところがわかりやすくまとめられています。

戦争があったため、日本との関係だけでも厄介なのに、故郷・中国が共産党の人民共和国と国民党の民国に分裂してしまっていることが、さらに華僑社会を複雑にしています。でも、そういう国籍にとらわれず、さらに未来へ向けて歩んでいるか今日の方々の姿が描かれているのも、本書の特色ではないでしょうか?