罔殆庵

染井吉野ナンシーの官能世界

南京事件論争史


南京事件論争史』読了。

少し前に読んだ「百人斬り」の新書とは真逆の本です。本書で著者は、歴史学的に南京事件南京大虐殺)に関しては決着がついていると書いています。このことについて、いまだに反論する人もいるのでしょうが、虐殺否定派ですら、昨今は「殺害」はあったけど「大虐殺」ではない、という論調に変わってきているようです。

著者が書いているように、大虐殺肯定派の著作にちょっとした些細な瑕疵があっただけで、否定派は鬼の首でも取ったようにそこを批判し、そこから広げて「肯定派の言うことは当てにならん、だから虐殺もでっち上げで、事実ではない」という論理の飛躍になるのでしょう。

それをいちいち再批判していく肯定派の面々の努力には頭が下がりますが、結局、このようないたちごっこが繰り返される理由の一つに、現在の中国の体制があるのだと思います。日中戦争時のことはおくとしても、新中国成立後の中国政府の発表や主張には、どう見ても事実でないもの、誇張しているものが含まれていることは多くの日本人が知っています。だから南京大虐殺などについても「中国政府(中国人学者)の主張は誤りだ」という論調が日本人に受け入れやすくなっているのでしょう。

ところで本書は論争史の体裁をとっていますが、具体的には肯定派・否定派の主要な著作の紹介というスタイルです。そのため政治家の動きとかマスコミの動きについてはやや記述が薄いです。

南京大虐殺に関する不毛な論争は歴史学の話ではなく、政治の話になってしまっているわけですから、もう少しそのあたりをフォローしていてもよかったかなと思いました。