罔殆庵

染井吉野ナンシーの官能世界

大地の咆哮


『大地の咆哮』読了。単行本が出て、かなり話題になっていたのに、何となくスルーしてしまい、今回文庫本になったので、これは読んでおかないと、と思って購入しました。

内容は、よくある中国ウォッチもの、という印象を受けますが読んでいるとちょっと違います。どこがどう違うのと聞かれてもうまく表現できないのですが、例えば、体当たり探検記のような泥臭さや熱さといったものとは対極にありながら、かといって冷たく中国を突き放しているわけでもない、中国を愛しているのだろうけれど、それをぐっと押さえて、末永く中国と付き合っていくために、いま何をすればよいのかと冷静に説いている、といった感じです。

特に、外交官として、日本として主張すべきことはきちんと主張すべきであるとして、著者なりに現役中はかなり努力もされたのだと思いますが、アホな政治家の軽率な発言にどれだけ足を引っ張られたか、と同情します。

本書で最も興味深く読んだのは、著者が大使館の権限でできる、小口の援助、草の根援助の活動について語っている部分と、中国に変化を促す外圧としてバチカンを挙げているところです。この両者は、この手の本の中で、これまでほとんど触れられてこなかったのではないかと思います、管見の及ぶ限り。

それと、実はこれが一番の特色ではないかと思うのですが、ほとんど著者が関わった人の個人名が出てこないということです。こういった本では、著者の交友範囲で、差し障りのない範囲で中国人を登場させ彼らに語らせる(インタビューも含め)パターンが多かったのですが、本書は終始一貫して著者自身が体験したこと、考えたこと、及び公開されている資料で構成されています。それが、一種独特の雰囲気というかリズムを生み出しているのではないでしょうか?